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オーバーナイト透析について

オーバーナイト透析とは? 通常の透析との違いを解説

オーバーナイト透析という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
オーバーナイト透析は、その名の通り一晩かけて夜間〜早朝にかけて行われる透析を指します。通常の透析は日中4時間×週3回かけて行う治療のため、日中の活動がどうしても制限されてしまい、学業や仕事にも支障がでやすいです。しかしオーバーナイト透析を利用することで、社会生活を送りながら透析治療を受けることが可能となります。
また、オーバーナイト透析は通常の透析よりも長時間をかけて行う透析であるため、このことによる利点もあります。
この記事ではオーバーナイト透析の概要やオーバーナイト透析が可能な方、メリット・デメリットなどについて解説していきます。


■オーバーナイト透析とは

オーバーナイト透析は睡眠時間を利用した深夜帯に行う透析です。通常4時間程度の透析と比較してオーバーナイト透析は8時間程度の長い透析を行うことができます。透析中も睡眠の支障がないように頻回に血圧測定を行わないことも、日中の透析と比較して違う点です。

スケジュールとしては、病院によって異なりますが、20時〜22時頃に透析を開始し、朝5〜7時ごろに終了することが一般的です。
このように日中の仕事・学業や家族との夕食などを終えた後の透析となりますので、日中透析と比較して社会生活への影響が少ない(完全社会復帰が可能)という点が最大の特徴です。

ここでオーバーナイト透析と混同されやすい透析方法に夜間透析があります。
夜間透析も日中を避けて行われることは同じですが、17〜18時に開始され22〜23時頃終了となります。
つまり夜間透析とオーバーナイト透析はいずれも日中の時間を避けているという意味では同じですが、夜間透析は日中の透析と同じように4時間程度で行われるためオーバーナイト透析のように長時間の透析を行うわけではありません。

オーバーナイト透析の概要については理解していただけたかと思います。
ではどのような方がオーバーナイト透析の対象者となるのでしょうか?

■オーバーナイト透析の対象者

オーバーナイト透析を行うに当たって重要な点は、睡眠時間に透析を行うという点です。
このため自分自身や周囲の睡眠に影響を与えないことが重要です。
具体的には下記のような条件があります。

・周囲の方に迷惑となるような騒音(いびき)がないこと
・認知機能に問題がないこと
・透析をしながら入眠することが可能なこと
・スタッフの指示に従い安全が確保できること

オーバーナイト透析は、夜間帯で透析時のスタッフが少なく検査も限られることから、透析間の体重変動が少ない・透析中の血圧変動が少ないなど身体状態が安定していることが必要です。このため、透析を開始したばかりの方よりは長期間透析を行い状態が安定している方に向いた治療法です。

また、オーバーナイト透析は学業や仕事との両立を目指している方が基本的な対象者となり、透析ベッド数にも限りがあるため、リタイヤする年齢の方にはあまり向かない治療法と言えます。

オーバーナイト透析の対象者については理解していただけたかと思います。
続いてオーバーナイト透析のメリット・デメリットについて見ていきます。

■オーバーナイト透析のメリット

オーバーナイト透析のメリットは以下のようなものがあります。

〇社会生活と透析を両立しやすい(完全社会復帰を目指せる)
〇長時間透析のため体の負担が少ない

オーバーナイト透析のメリットは、なんと言っても日中活動への制限が少ないことです。通常の昼間に行う透析の場合は、月・水・金または火・木・土の3日間行われ、1日4時間程度が必要です。午前か午後に行われることが多く、通院時間も考えると半日程度必要です。このように、日中透析では日常生活への影響が大きくなってしまいます。その結果、仕事を辞めざるを得ない方も多くいらっしゃいます。
しかし、オーバーナイト透析では基本的に就寝時間に透析を行うため、日常生活への影響が少なく済みます。新型コロナウイルス感染症の影響もありリモートワークが推進されてきましたが、まだまだ対面で行われる仕事・学業も多くあります。日中の仕事・学業を諦めることなく、透析治療も同時に行えるのがオーバーナイト透析のメリットです。

また、オーバーナイト透析は時間をかけて行う長時間透析であり、このことによるメリットもあります。基本的に透析をする目的の一つは、通常腎臓から排泄される水分や尿毒素と呼ばれる毒素を取り除くことです。通常の透析では短時間で多くの水分と尿毒素を除去する必要があるため、体への負担がより大きいとされています。
しかし、オーバーナイト透析のような長時間透析では、通常の透析より時間をかけて行うことで、尿毒素を体の負担が少ない形で体内から取り除くことができます。長時間透析により体の負担が少ない治療を行うことで、血圧の急激な低下などの透析で起こり得る合併症も起こりづらくなりますし、透析患者で必要な食事制限も通常より緩和される傾向にあります。
食事の幅が広がることで、生活の質が向上することが期待できます。
これらの点から、オーバーナイト透析は実施時間帯以外にもメリットがある治療と考えられます。例えば、透析効率の指標として、日本透析医学会のガイドラインでKt/Vという数値が推奨されています。透析時間4時間以上の場合Kt/Vが1.2から1.8以上まで上昇させると死亡リスクが低下するとされ、オーバーナイト透析への移行によりこのKt/V(透析量を表す指標)が大きく改善したという報告があります。
長時間透析自体はもちろん日中の透析でも可能ですが、日中長時間拘束されることにより社会活動への影響はさらに大きくなってしまいます。オーバーナイト透析は夜間の就寝時間を利用しながら行うことで、体感時間も短くなり、それでいて長時間透析のメリットが得られる治療法であるといえるでしょう。

ここまでオーバーナイト透析のメリットについて見てきました。しかし、オーバーナイト透析にもデメリットはあります。デメリットについても理解しておきましょう。

■オーバーナイト透析のデメリット

オーバーナイト透析のデメリットは主に下記があります。

●夜間帯で検査が限られるため、状態が安定している方が対象となる
●治療の支払い方法が制限される
●環境変化に敏感な方だと入眠できない場合がある
●オーバーナイト透析を実施しているクリニックが限られている

オーバーナイト透析ですと、透析中に睡眠を行うことになります。このため、頻回な血圧測定を行わないなど検査が制限されます。胸部レントゲン検査など、一部の検査は日中に受診していただく必要があります。
また、夜間帯のため昼間の時間帯と比較するとスタッフの数も少なくなる傾向があります。よって透析中の状態変動が大きいと、十分な安全確保が行えなくなってしまいます。このため透析を始めたばかりで、状態が安定していない方には向かない治療法であるというデメリットがあります。
スタッフの数が少なくなることと合わせて、会計方法が制限されることにも注意して下さい。お支払いは後日来院して行うか、振込(手数料が別途必要)で行って頂く必要があります。

そして就寝しながら透析を行うわけですが、周囲にも透析を受けている人がいらっしゃるため、人によっては熟睡することができない場合があります。この点は個人差もありますが、1ヶ月程度オーバーナイト透析を行うことで環境の変化に慣れ眠れるようになることが多いようです。個室や半個室が用意されている場合もあるので、睡眠環境が気になる方はこの点をよくチェックすることがおすすめです。

またオーバーナイト透析は夜間透析以上に、実施しているクリニックの数が少ないのもデメリットです。実施しているクリニックであっても、枠数(ベッド数)は当然午前や午後に透析を行う枠数と比較すると少なくなってしまいます。
このため、オーバーナイト透析は日中に仕事や学業がある人に対して優先的に実施されることが多く、現在仕事を行っていない方ですとなかなか対象クリニックを探すことが難しいのが現状でしょう。

■まとめ

今回の記事ではオーバーナイト透析の概要やメリット・デメリットについて解説してきました。
近年透析患者の数は増加し続けており、透析患者数は約35万人、新たに透析をはじめる方も年間38,000人以上と言われています。透析は、腎臓機能が低下した人々にとって欠かせない治療法であり、生命を維持するために重要な治療法です。しかし、通常の透析治療は週に数回行われ、1回の透析に数時間を要します。このため、患者の日常生活や社会活動に制約を与えることが多くなります。

オーバーナイト透析は就寝しながら透析を受けることが可能で、仕事や学業と両立しやすく社会復帰を目指しやすい透析方法です。また長時間の透析時間をとることが可能なため、通常の透析と比較して体の負担を減らすことができます。これらの利点から、オーバーナイト透析はメリットの多い治療方法であると言えます。
ただし全ての方が行える治療法ではなく、行える医療機関も限られていることに注意が必要です。オーバーナイト透析のメリット・デメリットを把握し、後悔の少ない透析治療を受けられると良いでしょう。

現在透析をされている方や今後透析が必要となる可能性がある方で、仕事や学業と透析を両立させたいとお考えの方は、オーバーナイト透析について主治医の先生と相談してみてはいかがでしょうか。オーバーナイト透析を理解する上で、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
千葉県千葉市にあるみはま病院では、オーバーナイト透析を含めた血液透析を行っております。人工透析・泌尿器科・慢性腎臓病治療の専門病院として地域医療に貢献しておりますので、千葉市近辺にお住まいの方で透析について検討されている方は是非受診を御検討ください。

監修 内野 順司

医療法人社団 誠仁会 CE部上席部長
公益社団法人 日本臨床工学技士会 副理事長
一般社団法人 千葉県臨床工学技士会 監事