夜間透析とは?通常の透析と比較したメリット・デメリットを解説
夜間透析という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
透析(血液透析)というと、通常は午前や午後に行う昼間透析のことを指します。近年、この透析治療を受ける患者の数が増加しており透析患者数は約35万人、新たに透析をはじめる方も年間38,000人以上と言われています。透析は腎臓の機能が低下した人々に対して行われ、通常腎臓から排泄される尿毒素や余分な水分を人工的に体外に排出する重要な治療方法です。通常の昼間透析は週に3回行われ、4〜5時間かかります。しかし、夜間透析という通常より遅い時間帯に行う治療法が注目を集めています。
夜間透析は、午後17時以降など夕方以降の時間帯に開始し、午後22時頃に終了する透析のことを指します。通常の透析では日中に拘束時間が発生するため社会的な活動や仕事に参加する上での制約が生じてしまいますが、夜間透析を行うことで社会生活との両立を実践しやすくなります。夜間透析は、透析を受ける方にとって社会復帰への道を開く新たな治療オプションです。
この記事では夜間透析のメリット・デメリットを通常の透析と比較して解説します。
クリニックや病院での血液透析治療は通常、午前・午後の2クールで1回4時間程度の透析を行っていることが一般的です。これに対して夜間透析は、17時前後が開始時間となっており、終了時刻も22時以降に設定されていることが一般的です。つまり日中の透析に加えて夜間透析を行っている医療機関の場合、午前・午後・夜間の3クールで透析を行っているというわけです。
なお、夜間透析と同じように夜間に行う透析として、オーバーナイト透析と呼ばれる透析方法があります。オーバーナイトとは一晩を越えるという意味で、オーバーナイト透析はその名の通り、夜間〜早朝にかけて行われる透析を指します。つまり、夜間透析もオーバーナイト透析も日中を避けて行われるという意味では共通点があります。一方、透析時間に関して、夜間透析は日中に透析を行う場合と同じく4時間程度で、オーバーナイト透析は睡眠時間と重なるため透析時間が長く7〜8時間程度になるという違いがあります。
オーバーナイト透析のことを含めて夜間透析と呼ぶ場合もありますが、本記事では17時~22時の準夜帯に行われる透析のことを夜間透析と呼び、オーバーナイト透析は夜間透析に含めていません。
夜間透析の概要については理解していただけたかと思います。ではこのようにして行われる夜間透析にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
まずは夜間透析のメリットについて確認していきたいと思います。
〇仕事や学業と両立がしやすい
〇日中の時間が確保でき、透析導入前と近い生活を行うことができる
〇比較的対応しているクリニックが多い
夜間透析に関しては、日中の時間を比較的自由に過ごすことができるため、仕事や学業と両立しやすいことが最大のメリットです。通常の昼間に行う透析の場合は、月曜日・水曜日・金曜日または火曜日・木曜日・土曜日の週3回行われ、1日4時間程度が必要です。午前か午後に行われることが多く、通院時間も考えると透析を行うには半日弱が必要です。このように、日中透析を行っていると、日常生活への影響が大きくなってしまいます。
また夜間透析は上で類似していると書いたオーバーナイト透析よりも、日本で広く普及しています。仕事や学業との両立を考える上では夜間透析以外にオーバーナイト透析も選択肢として出てきますが、オーバーナイト透析は対応クリニックがかなり限られます。そしてオーバーナイト透析では睡眠中に透析を行うという特殊性から、環境変化に繊細な方(環境が変わると眠れなくなってしまう方)には向かないというデメリットも抱えています。
このような理由から、社会復帰を目指しつつ、通いやすい範囲にあるクリニックを選ぶという目線で考えたとき、夜間透析は良い選択肢と言えるでしょう。
ここまで夜間透析のメリットについて見てきました。
一方夜間透析にはデメリットもありますので、こちらについても把握しておきましょう。
●日中の透析と比較すると対応施設が限られる
●夜間帯のため検査が制限される
●公共交通機関以外のアクセス手段が必要
夜間透析におけるデメリットの一つとして、日中透析と比較すると対応施設が限られるという点があります。一般的に午前・午後の透析にはほとんどの施設が対応していますが、夜間透析に対応している施設となると数がどうしても限られます(もっとも先述のとおり、オーバーナイト透析と比較すれば対応施設は多いのですが)。このためお住まいや仕事先の近くで夜間透析が可能なクリニックを探すのは、やや苦労するかもしれません。
そして夜間透析のメリットから考えると、現在仕事や学業がある方が対象者として優先されやすいです。ベッド数にも制限があるため、リタイヤする年齢の方ですと夜間透析を希望してもなかなか空きが見つからないという可能性があります。
透析時間が夜間帯となるため、検査が通常より制限されたり、担当する医師やスタッフの数が少なくなりやすいといった点もデメリットです。具体的にはレントゲン撮影等、透析とは別に日中の受診が必要となることもあります。
このような理由から、夜間透析は最近透析を開始したばかりの方より、比較的透析歴が長く血管への穿刺が行いやすい(ブラッドアクセス良好)・身体の状態が安定しており血圧低下などの透析に伴う副作用が出づらいなどの条件を満たす方に向いた治療法であると考えられます。
また、夜間透析独自の問題として、クリニックや病院へのアクセス経路が限られる点にも注意が必要です。午前/午後であれば電車やバスなどの公共交通機関でアクセスすることが可能であっても、夜間透析が終わる時間帯になると公共交通機関がなくなっていたり、あるとしても数がかなり減ってしまったりしている場合があります。
このため、車を含めた公共交通機関以外のアクセス手段を確保しておくことが必要です。ただ、車(自家用車)に関しては都道府県によって普及率に差がありますので、東京都や大阪府など、公共交通機関の発達した都市圏に近い場所では保有されていない方も多いかと思います。しかし夜間透析が終わる時刻は遅くなりますから、徒歩や自転車で通うというのも安全性の面からやや危険が高いです。
このような場合、クリニックや病院によっては、透析患者さんを対象とした送迎サービスを行っている場合もありますので、自家用車をお持ちでない方は一度確認してみましょう。
このように、夜間透析にはメリットだけでなくデメリットもあります。
メリットばかりに目を向けるのではなく、デメリットもしっかり把握しておくことで後悔なく透析治療を受けることができます。
夜間透析は、腎臓疾患を抱え透析が必要な方にとって重要な治療法の一つです。通常の透析治療は日中に行われるため、仕事や学校などの日常生活への復帰に制約をもたらすことがあります。しかし、夜間透析はそのような制約を緩和する効果があります。
夜間透析は、慢性腎臓病患者の治療法の一つとして注目されています。将来的には、夜間透析がより一般的になり、透析センターの施設や設備が進化することが期待されます。さらに、技術の進歩や研究の進展により、夜間透析の利便性や効果が向上し、より多くの患者がこの治療法を利用できるようになるかもしれません。夜間透析は、慢性腎臓病患者の生活の質を向上させる可能性を秘めた治療法と言えます。
ただし夜間透析は、すべての患者にとって適切な治療法ではありません。透析治療には様々な種類があり、患者さんの状態やニーズに合わせて適切な治療法を選択する必要があります。とくに透析を開始したばかりで病状が安定しない方には向いていません。医療では個別の状態や要件に基づいて、適切な治療法を選択することが重要です。夜間透析は、医療の進歩によって提供される新しい選択肢の一つであり、患者の生活の質を向上させるための貴重なツールとなるでしょう。
現在は施行できるクリニックの数に限りがありますが、今後より一般的に広がっていけば、さらに多くのクリニックや病院で夜間透析が実施可能になることが期待されます。そのような未来が到来すれば、透析患者さんの生活の質がより改善され満足の行く社会生活を送ることができるようになるでしょう。
夜間透析治療が可能かどうかは主治医とよく相談が必要ですが、学業や仕事と透析治療の両立を目指す方は、夜間透析という選択肢があることを知っておいていただけるときっと役立つかと思います。
千葉県千葉市にあるみはま病院では、夜間透析を含めた血液透析を行っております。人工透析・泌尿器科・慢性腎臓病治療の専門病院として地域医療に貢献しておりますので、千葉市近辺にお住まいの方で透析について検討されている方は是非受診を御検討ください。
監修 内野 順司
医療法人社団 誠仁会 CE部上席部長
公益社団法人 日本臨床工学技士会 副理事長
一般社団法人 千葉県臨床工学技士会 監事